福岡地方裁判所 昭和56年(行ウ)22号 判決
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【判旨】
次に、本件更正及び決定の適法性について判断する。
1 原告は、本件土地は、原告が田中商事に対し、久保一男を仲介人として、代金一七三二万五〇〇〇円で売却したものであるから短期譲渡所得のもととなる収入金額は右金額である旨主張するのに対し、被告は、本件土地は、原告が第一通産に対し、田中商事を仲介人として、代金二七二二万五〇〇〇円で売却したものであるから短期譲渡所得のもととなる収入金額は右金額である旨主張するので、以下、原告の本件土地の譲渡先及び受領代金額について判断する。
(一) <証拠>を総合すれば、田中商事は、第一通産のために、本件土地以外の物件の購入を斡旋したことがあるところ、第一通産社長黒土始は、同社住宅事業部長川崎昭一から、昭和五三年一〇月一二日以前、本件土地を田中商事の仲介で、坪当り五五万円で購入したい旨の相談を受けたこと、本件土地は、原告から第一通産へ所有権移転登記がなされていること、本件土地の売買代金授受は、昭和五三年一〇月一二日、第一通産の事務所で行われ、第一通産の担当者川崎昭一が、二五〇二万五〇〇〇円(代金二七二二万五〇〇〇円から、手付金三〇〇万を差し引き、手数料八〇万円を加えたもの)を久保一男に渡し、久保は、その場で原告の息子坂本光男に、右金員のうちから原告からの仲介手数料一〇〇万円及び第一通産からの仲介手数料八〇万円を差し引いた二三二二万五〇〇〇円を渡し、前記各手数料の合計額一八〇万円は後に田中商事社長田中敏男に渡したこと、他方、光男は、右代金授受の場で、立会つていた長崎相互銀行若松支店長山田誠二に対し、右代金のうちから、光男名義の同相互銀行からの借入金二〇〇〇万円を弁済したこと、田中商事は、本件土地の売買契約当時、不動産仲介の免許を有していたが、久保一男は何らその資格を有していなかつたこと、田中商事の現金出納帳には、昭和五三年一〇月一八日、第一通産より八〇万円、原告より八二万円の収入が仲介手数料として記載されていたこと、久保一男は、昭和五三年一〇月当時田中商事の専務だったところ、昭和五四年一一月九日、若松税務署税務職員の質問に答え、本件土地は原告が第一通産に対し売り渡したものであり、田中商事が仲介したものである旨及び本件土地についての原告から田中商事、田中商事から第一通産へのそれぞれの売買についての契約書は、田中商事社長田中敏男の依頼により久保が作成したものである旨述べていること、以上の各事実を認めることができる。
右代金授受の態様、登記簿上の記載、帳簿上の記載、田中商事と久保一男の関係及び売買前後の事情等を総合すると、本件土地は、原告が第一通産に対し、田中商事の仲介により代金二七二二万五〇〇〇円で売却したものと認めるのが相当である。
(二) これに対し、<証拠>中には次のような部分がある。
原告は、昭和五三年三、四月ころ、久保一男から、本件土地を田中商事に売却して欲しい旨依頼され、同年八月二〇日、田中商事に本件土地を一七三二万五〇〇〇円で売却する旨約した。原告と田中商事との間の売買代金の授受は同年一〇月一二日、第一通産の事務所において、坂本光男、久保一男、長崎相互銀行若松支店長山田誠二、花田司法書士及び第一通産の川崎昭一らが立会い、第一通産から田中商事に両者間の売買代金未払分二四二二万五〇〇〇円が支払われ、右金員を久保一男が預り、同人は、右金員を全額坂本光男に渡した。光男は、右金員のうちから、久保一男に対し仲介手数料として一〇〇万円、山田誠二に対し、光男名義の長崎相互銀行若松支店からの借り入れ金二〇〇〇万円をそれぞれ支払い、残金三二二万五〇〇〇円を持ち帰つた。ところで、原告は富本貢に対し、同年九月四日に二〇〇〇万円を貸し付けていたが、同人は、同年一〇月一日原告に対し、右借入金のうち元金一〇〇〇万円と同日までの利息四〇万円を返済したので、光男は、前記三二二万五〇〇〇円と右返済金一〇四〇万円の合計額一三六二万五〇〇〇円のうちから、田中商事に返還すべき清算金七九六万円を、前記売買代金授受の日である同年一〇月一二日、原告事務所において田中敏男社長に対し支払つた。そして残金五六六万五〇〇〇円のうち、三四〇万円を、原告の仮名口座である石松信一名義の長崎相互銀行若松支店の口座に、二〇〇万円を山口相互銀行の原告名義の口座にそれぞれ預金した。
また、証人川崎昭一は、第一通産は本件土地を田中商事から買い受けた旨供述する。
さらに、<証拠>によれば、富本は、若松税務署の職員及び国税副審判官に対し、前記原告からの借入金及びその返済につき、原告本人尋問の結果に沿う供述をしていること、<証拠>によると、久保は福岡国税不服審判所長にあてて、自分が本件土地についての原告と田中商事との売買を仲介したことその手付金は田中敏男が受け取り、残金は自分が受け取り田中の指示で坂本光男に渡した、田中が昭和五三年一〇月一二日に原告の事務所で七九六万円を受け取つたと聞いた等の記載のある説明書を作成していることが、それぞれ認められる。
(三) また、<証拠>によれば売買仲介手数料として第一通産から八〇万円、原告から一〇〇万円がそれぞれ支払われており、右手数料の領収証発行名義人は久保一男であることが認められるし、<証拠>によれば、原告主張の、原告田中商事間の昭和五三年八月二〇日付、田中商事第一通産間の同年九月一二日付の二つの売買契約に対応する契約書が作成されていることが認められ、<証拠>によれば、田中商事は第一通産に対し、本件土地売買の手付金として三〇〇万円、他に二四二二万五〇〇〇円の領収証をそれぞれ発行していることが認められる。
(四) しかし、次の諸点に照らすと、本件土地が原告から田中商事、田中商事から第一通産にそれぞれ売買されたものとする原告の主張に沿う前掲(二)の各証拠は、にわかに措信し難く、前記(三)認定の事実によつても、前記(一)の認定を覆すに足りない。
(1) 光男が、昭和五三年一〇月一二日の代金授受の際、原告が受け取るべき代金額を超えた二四二二万五〇〇〇円全額を預つたことの理由について、原告本人は、当時田中商事が事実上倒産状態にあつたからである旨供述するが、仮にそうであつたとしても自己の受領すべぎ代金額を超える金額を受領する権限、必要性を肯認するに足る事情は認められず、また、原告と田中商事、第一通産との間で代金支払方法についての特約があつたものとも認められない。
また、<証拠>によれば、原告が田中商事に対し支払つたとされる清算金七九六万円については領収証等の証ひようは存在せず、田中商事の帳簿にも記載がないことが認められる。
(2) <証拠>によれば、契約書上田中商事が本件土地の第一通産に対する売主となつているが、第一通産の黒土始社長は、契約当時このことを知らず、むしろ田中商事から契約書上の売主の記載については任せて欲しい旨の要請を受けていたことが認められる。
(3) <証拠>によれば、久保一男は、若松税務署職員及び国税審判官の各聴取に対し、同人は原告と田中商事の売買を仲介したことはなく、また、前記久保一男発行名義の各領収証は、持参していた同人名義のゴム印を使用したことにより同人名義となつただけであり、実際は右領収額は田中商事の収入となつていることが認められる。
(4) <証拠>によれば、前記原告田中商事間の売買契約書上田中商事が原告に対し昭和五三年八月二〇日に支払つたとされる手付金一〇六万円は、田中商事の帳簿には記載されておらず、久保も若松税務署における聴取に答えて右一〇六万円の手付金の授受はなかつた旨述べていることが認められる。
(5) 原告の主張によれば原告、田中商事間の売買は、昭和五三年八月二〇日であり、田中商事、第一通産間の売買は同年九月一二日であり、両者はわずか二〇日余りしか隔つていないのに、代金額には九九〇万円の差があることになり、特にこの間に値上がりを促す特別事情も見当らないことからすれば、不自然である。
2 以上のとおり、原告は、第一通産に対し、昭和五三年八月二〇日本件土地を代金二七二二万五〇〇〇円で譲渡し、右代金を受領しているものであつて、原告が、これを原告が田中商事に対し同日一七三二万五〇〇〇円で譲渡したことを前提に被告に対して短期譲渡所得の金額を申告したのは事実に反する申告であると認められ短期譲渡所得のもととなつた取得費及び譲渡費用の金額は当事者間に争いがないから、被告が、右短期譲渡所得額を被告主張のとおり更正したのは適法である。
3 本件更正にかかる、被告主張のその余の更正項目、更正額、更正の理由は当事者間に争いがない。
したがつて、本件更正は適法である。
4 次に、<証拠>に前記認定事実を総合すると原告は、本件土地を第一通産に譲渡したにも拘らず、田中商事に譲渡したものと仮装し、真実でない売買契約書を作成し、これに基づいて確定申告書を提出していることが認められるから、本件決定も適法である。
(麻上正信 水上敏 河野泰義)